【コラム】20年以上使用した美容院の店名を変えざるを得なくなった事案から学ぶポイント
20年以上にわたり使用していた美容院の店名を変えなければいけなくなった事案から、美容院の事業を始め、展開していく上で気を付けるべきポイントをご紹介します。
目次
- 押さえるべきポイント
- Cache事件
(1) 事案の紹介
ア 当事者
イ 事案の時系列
(2) 事案の分析 - 結び
1 押さえるべきポイント
結論から申し上げますと、ネーミングを思いついたら、次の2点を忘れずに行ってください。
① 商標調査
② ①の結果、他人が商標を登録しておらず、使用しても問題なさそうであれば、商標登録出願
その目的としては、自己の使用を守ること、他人に使用させないこと、の2点であり、トラブルを事前に回避するためです。
この後、事案を紹介しますが、商標調査・出願をしておかなければ、使用できなくなったり、相手方との紛争対応や使用の変更に伴う対応に労力、時間、費用を使うことになるので、リスクが大きいです。
商標調査や商標登録出願は、ご自身でもできなくはないですが、慣れていらっしゃらない場合、事業を適切にカバーする商標権を取得できない可能性があるので、弁理士に相談・依頼をすることをおすすめします。
2 Cache事件
大阪地判平成25年1月24日平成24年(ワ)第6896号 商標権侵害差止等請求事件
(1) 事案の紹介
ア 当事者
原告:有限会社Cache。
Cache(本件商標(標準文字))の商標権者
(登録第5441186号 第44類 美容、理容)
被告:P1
店名として、下記被告標章1を使用した美容室を営業していた者。
被告標章1
イ 事案の時系列
平成元年12月ころ
被告が、東大阪市に被告標章1を使用した美容室を開店。
平成13年
原告代表者は、大阪市に美容室「Caché」を開店。
平成15年
原告代表者は、原告(有限会社Cache)を設立。
平成17年
原告子会社は、大阪市に美容室「Caché PRIVEE」を開店。
平成21年
原告子会社は、上記2店舗を統合し、新たに美容室「Caché」を開店し、経営。
平成23年
原告子会社は、大阪市に美容室「Caché」を開店。
同年6月21日
原告は、本件商標を出願。
同年9月30日
本件商標が登録される。
同年11月ころ
原告は、被告に対し、本件商標登録の旨を通知し、被告標章1を変更するように申し入れを行い、被告は変更した。
同年12月21日
被告は、東大阪市保健所に対し、被告店舗の名称を「aisé エゼ」に変更する旨の届け出を行う。
同年12月22日
大阪府美容生活衛生同業組合に、美容室名「cache(カーシェ)」を「aisé エゼ」に変更する旨の届け出を行う。
同年12月26日
被告は、「aisé エゼ」について商標登録出願をした。
(2) 事案の分析
被告は、原告が使用を始める10年以上も前から使用していたのですが、商標登録出願では原告に先を越されたために、結局、使用していた美容院名を変更せざるを得なくなりました。
被告としては、20年以上にわたり使用していた店名を変えなければならなくなったのであり、その影響は大変大きかったと思います。
こういったトラブルもあってか、被告は、新しい店名についてはすぐに商標登録出願をしております。
開店当初は資金繰りにゆとりがない、あるいは問題にならないと思っているかもしれませんが、自社にとって変更したくないネーミングについては、商標登録出願をすべきでしょう。
ところで、裁判で被告は、「先使用権が成立する。」と争っています。先使用権が成立すれば、その範囲で、被告は使用しても問題ないことになります。この点について、裁判所は、以下のとおり判示し、先使用権の成立を否定しています。
先使用権(商標法32条)の要件にいう,商標登録出願の際,その商標が自己の業務に係る役務を表示するものとして「需要者の間に広く認識されているとき」については,先使用権に係る商標が未登録の商標でありながら,登録商標に係る商標権の禁止権を排除して日本国内全域でこれを使用することが許されるという,商標権の効力に対する重大な制約をもたらすことに鑑みると,本件においても,単に当該商標を使用した美容室営業の顧客が認識しているというだけでは足りず,少なくとも美容室の商圏となる同一及び隣接する市町村等の一定の地理的範囲の需要者に認識されていることが必要というべきである。 本件において,被告は,被告標章1について特段の広告宣伝活動をしていなくても,被告店舗1を約23年間営業してきた事実をもって,上記周知性が認められると主張する。しかしながら,被告が長年の美容室営業によって固定客を獲得しているとしても,同一及び隣接する市町村等には他の美容室を利用する者も多数存在していると考えられ,これらの者の被告標章1に関する認識は全く明らかでないことからすれば,被告標章1が「需要者の間に広く認識されているとき」に当たるということはできない。 したがって,本件において,被告による被告標章1の使用につき,先使用権は認められない。
3 結び
事業を始められるとき、そのネーミングについて、
① 商標調査
② 商標登録出願
をしましょう、とアドバイスをしております。
では、なぜそのようなアドバイスをするのか、せっかく思いついたネーミングについて、使用できなくなるおそれや他社が使用をし始めて誤認混同されるおそれがあるからです。
上記の事案がまさにその典型例です。
気になることがございましたら、遠慮なく弊所までお問い合わせください。
弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
所長 弁護士 弁理士 西脇 怜史(第二東京弁護士会所属)