【コラム】商標を登録しても、警告や提訴をされることはあるので注意(二段併記等)
2022年6月から、日本商標協会の判決研究部会の部会長を務めることになりました。
そこで、商標権に関する最近の判例をピックアップして、実務に役立つポイントをお伝えしたいと思います。
KENT事件(國分) 東京地判令和4年1月31日令和2(ワ)1160
この判決をピックアップした理由は、
被告は、原告商標権が発生後に出願し、登録商標を取得できたにもかかわらず、原告から警告を受け、訴訟となり、結果負けてしまったからです。
ここでは、商標を出願し、登録できたとしても、使い方を誤ると訴えられるリスクがあることをお伝えします。
KENT事件については、争点が3点ありますが、長くなるので割愛し、登録商標使用の抗弁の成否に関してピックアップします。
登録商標使用の抗弁(商標法25条本文)の成否
原告商標権と被告標章が類似であると認められたとして、
被告がその使用する標章について商標を登録している場合には,
その登録商標と同一(全く同一でなくとも,取引の実情に鑑みて社会通念上同一と認識されるものも含む。)の標章を適法に使用し得る権利を有するとの抗弁が認められるかが争われました。
被告のシャツに付されていた被告標章と、被告の登録商標を示します。
被告標章と被告登録商標は「社会通念上同一」といえるでしょうか?
被告標章1は「MARINE SPIRIT」が入っているから厳しそうですが、
被告標章2はどうでしょうか?
裁判所は、外観上の相違点として次のポイントを挙げて、否定しました。
① 書体
登録商標は、明朝体様
被告標章1は、MARINE SPIRIT部分はゴシック体様。他は手書き風タッチ。
被告標章2は、ゴシック体様
② 欧文字の「KENT BROS.」の配置
登録商標は、横一列。 被告標章1及び2は、二段。
③ カタカナの「ケントブロス」の有無
登録商標は、あり。 被告標章1及び2は、なし。
KENT事件から学ぶ商標登録出願・使用上の留意点
商標法38条5項及び50条によると、
① 書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標
② 平仮名、片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであつて同一の称呼及び観念を生ずる商標
③ 外観において同視される図形からなる商標
が「社会通念上同一」と認められる商標といえそうです。
KENT事件では、社会通念上同一か否かの判断のポイントとして、
① 書体(明朝体かゴシック体か)
② 配置(横一列か二段か)
③ カタカナの有無
を挙げておりました。
上記条文と比較すると、特に大きなポイントは、配置であったと考えます。
実は、被告のシャツには、襟ネーム,商品タグ及び胸ポケットの各部分に「KENT BROS.」と横一列に記載された箇所がありました。
しかしながら、原告は、これらを被告標章としてピックアップしておりません。
横一列の記載であれば、社会通念上同一であったと認定された可能性が高いと判断したのでしょう。
審判便覧(第19版)においても、上段及び下段等の各部が観念を同一とするときに、その一方を使用する場合は社会通念上同一と認められる商標の使用であるとしています。
したがって、二段併記のうち一方だけを使用する場合、そのままの配置で表記すべきです。
本件のように、KENT BROS.を二段に分ける等配置を変更して使用しないように留意してください。また、本判決から書体も変えずに使用すべきです。
緑健青汁事件(髙部)知財高判平成30年1月15日平成29(行ケ)10107では、下記のように4段併記の商標について、カタログ、雑誌における使用態様が「緑健青汁」の文字のみであった場合に、社会通念上同一と認められる商標であると、直ちに認めることはできないと判示しました。
被告登録商標のように、経費削減や他の登録商標との類似判断を回避するために読みを特定する等の観点から二段併記等で出願されることはあります。
その場合、不使用取消対策と他者登録商標への抵触を避けるべく、登録できた態様そのままで使うことがベストですが、実際に使用する際には、そのまま使用しないこともあるかもしれません。
そうすると、その使用態様が本件のように「社会通念上同一」といえないと判断される可能性があります。
さらには、実際の使用態様が他の登録商標と類似すると侵害となってしまうリスクがあります。
そうすると、出願する商標の選択と、登録後の使用において気を付けるべき点を事前に把握するためにも、商標調査が重要になってきます。
また、二段併記であれば、一方の使用につきそのままの配置であれば社会通念上同一と認められやすいかもしれませんが、三段併記以上の場合は、一方だけを使用する場合、そのままの配置で表記しても、社会通念上同一と認められない可能性があります。
したがって、経費削減等の観点で行うとしても、出願は二段併記に留めておくべきでしょう。
できれば、使用予定の商標を出願し、登録できた商標と同一のものを使用することが他者の商標権を侵害するリスクは低く好ましいです。
また、そうすることで、不使用取消審判を請求されて取り消されるリスクも低くなります。
もし、登録商標とは別の表記を使用予定であれば、登録可能性・使用可能性を調査し、その表記も出願し登録を得ましょう。
弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
所長 弁護士 弁理士 西脇 怜史(第二東京弁護士会所属)